論文内容の要旨

【題名】
The thalamostriatal projection carries sensory information with attentional value.
(視床線条体投射は注意に関する感覚刺激の情報を担う)


基礎工学研究科システム人間系専攻  南本敬史 博士(理学)

論文審査委員
(主査)教授 藤田一郎
(副査)教授 大澤五住、教授 佐藤宏道、京都府立医大 教授 木村実


 大脳基底核は、広範な大脳皮質領野から部位特異的な入力を線条体で受けると共に、中脳ドーパミンニューロンや大脳辺縁系から報酬や動横づけに関わる入カを受けることで、運動や行動を目的指向的に計画し実行することに深く関わると考えられている。これらの入力に加えて、視床髄板内核のCM-Pf核から線条体に豊富な輿奮性の投射があることが明らかにされている。しかし、この視床線条体投射がどのような機能を担うのかについては知られていない。本研究は、視床線条体投射の機能的意義を調ぺることによって、大脳基底核の目的指向的な行動選択機能のしくみを明らかにすることを目的としておこなった。
 最初に、アセチルコリン含有介在細胞であると考えられており、CM-pf核から投射を受けることが解剖学的に知られている線条体の持続放電型細胞(Tonically Active Neurons, TANs)へのCM-Pf核からの機能的な投射について調べた。従来の知見の基づいて、ニホンザルに感覚刺激と報酬との連合による行動の条件づけ学習をおこなわせ、報酬と連合した感覚刺激に対する応答を獲得することを確認した。同じ動物のCM-Pf核の細胞活動を記録したところ、視覚、聴覚や体性感覚など複数の感覚種の刺激に強く応答することがわかった。また、その応答は報酬の有無に関係なく現れ、目新しい刺激に強く応答するが、同じ刺激が繰り返されると馴化する特徴を備えていた。さらに、GABA受容体の作動薬であるムシモルをCM-Pf核に局所注入することによって機能遮断すると、線条体細胞であるTANsの感覚刺激に対する反応がほぼ完全に消失することがわかった。このことから、CM-Pf核は注意や警戒を喚起するような感覚刺激に応答を示すのに必須の情報を線条体の細胞に送っていることが明らかとなった。
 次にこの結果を踏まえて、CM-Pf-線条体系が注意の喚起のしくみに実際に関与するのか、関与するとすればどのように関わるのかについて調べた。これには従来用いられている注意課題を採用した。光スポットを注視してボタンを押さえているサルに、別の光トリガ刺激を合図にボタンを離させた。トリガ刺激の前に、同じ場所に手がかり刺激を提示すると(Valid条件:80%)、別の場所に提示する(Invalid条件:20%)時に比べてボタン離しの反応時間が有意に短く(Validity effect)、動物が手がかり刺激に注意を向けていることが確認された。この注意課題を遂行中のサルのCM-Pf核には、対側に呈示された手がかり刺激に強く応答する細胞が多く見つかった。さらに、CM-Pf核をムシモルにより機能遮断すると、対側視野への光トリガ刺激で調べたvalidity effectが選択的に消失することがわかった。したがって、CM-Pf核は注意の喚起に必須であることが明らかとなった。
 以上の研究によって、視床線条体投射が注意に関わる感覚刺激の情報を担っていることがはじめて明らかにされた。この情報は線条体における目的指向的な行動の選択機能に重要な働きをしていることを強く示唆する。