論文内容の要旨

【題名】
GABAergic Mechanisms for Construction of Selectivity for Object Features and of Receptive Fields of Monkey Inferior Temporal Neu-rons

(サル下側頭葉皮質ニューロンの受容野と物体特徴の選択性を作り出すGABA作動性抑制メカニズム)

王 毅 博士(理学)

論文審査委員
(主査)教授 藤田一郎
(副査)教授 大澤五住、教授 佐藤宏道


 下側頭葉皮質TE野の神経細胞は、複雑な物体特徴に対して選択的に応答し、両側性の受容野を持つ。その刺激選択性は、両視野にまたがる受容野内で保たれている(位置不変性)。そして似た刺激選択性を持つ神経細胞群は皮質に垂直方向に柱状に集合し配列している(コラム構造)。これらTE野細胞の活動は、視覚物体の脳内知覚表現を形成し、物体を識別、記憶、さらに認識する機能を担っていると考えられている。しかし、この複雑でかつ位置不変性を伴った刺激選択性がどのようにして、どこで生成されるかについてはほとんど知られていない。本研究では、麻酔下のサルを用いて、抑制性伝達物質ガンマアミノ酸(GABA)を介した局所抑制機構を、GABA受容体の拮抗剤であるビキュキュリンを電気泳動的に微量注入することで一時的に阻害した。その結果、神経細胞の刺激選択性および受容野がどのように変化するかを検討し、上述の問題にアプローチした。GABA抑制を阻害すると、TE野細胞の応答は、刺激特異的に増大を示し、刺激選択性は劇的に変化した。この増大は阻害前の有効刺激と関連した刺激群、あるいは阻害前は、その細胞に対しては刺激効果がないが近傍の細胞に対しては有効であった刺激群に特異的に見られた。1つのコラム内の細胞の選択特性は以前考えられていたよりは不均一であったが、強く相関しており、コラム内では強い興奮と抑制の相互作用が見られた。GABA抑制を阻害すると、阻害前はほとんどあるいはまったく応答を示さなかった元の受容野の辺縁部に呈示した刺激、あるいは受容野外に呈示した刺激に対しても応答を示し、受容野の拡大が見られた。これらの結果は刺激選択性の生成はTE野内でも進んでいること、GABAによる抑制はこの刺激選択性の形成さらに、刺激選択性に対するコラム構造の形成に寄与していることを示唆している。1つのコラム内の神経細胞は受容野外に及ぶ広い視野範囲から多数の異種の興奮性入力を受けており、刺激選択性および受容野は、関連した特定の刺激特徴をもつ多数の入力を統合することによって作り出されていると考えられる。GABA作動性の領野内抑制ネットワークはコラム内あるいは近傍のコラム間で作用し、TE野細胞の最終的な刺激選択性と受容野特性を決定していると考えられる。