論文内容の要旨

【題名】
Processing of shape defined by disparity in monkey inferior temporal cortex
(サル下側頭葉皮質における視差に基づく形の情報処理)

田中 宏喜 博士(理学)

論文審査委員
(主査)教授 藤田一郎
(副査)教授 村上富士夫、教授 倉橋隆


 サル下側側頭葉皮質には、明るさ、テクスチャーや動きを手がかりとした形に反応する細胞が存在する。本研究では、下側側頭葉皮質の細胞が、両眼視差のみを手がかりとした形に応答するかどうか、もし応答するならば、そうした細胞の形に対する応答選択性は、両眼視差が手がかりとなって形が見えている場合と他の視覚属性が手がかりとなって形が見えている場合とで、類似しているのかどうかを検討した。注視課題を遂行しているサルの下側側頭葉皮質から神経細胞外記録をおこない、両眼視差を手がかりとした形のみえるランダムドットステレオグラム(RDSs)に対する細胞の応答を検討した。その結果、異なった図形を含む8つのRDSsのいずれか1つにでも反応した細胞のうち、約20%の細胞が、異なったRDSsに対し、異なった応答を示した。片目像のみを呈示した場合には、この応答選択性は失われたことから、この応答選択性は、片目像中のドットパターンにたいする選択性とは考えられない。さらに、ドットパターンは異なるが、同じ8つの図形セットを含む2種類のRDSsにたいしては、細胞の応答選択性は類似していたことから、RDSsにたいする応答選択性は、両眼視差を手がかりとした形にたいする選択性であると考えられる。明るさ、もしくは、両眼視差を手がかりとした図形セットの少なくともいずれかに応答選択性を示した細胞の40%は、両方のセットに対し、興奮性の応答を示した。これらの細胞群の形選択性は、2つの手がかりの間で類似していた。同様の結果が、テクスチャーを形の手がかりとする場合と両眼視差を形の手がかりとする場合の間でも得られた。以上のことから、下側頭葉皮質には、網膜像中にはなく脳内で構成される、両眼視差を手がとりした形に反応する細胞が存在すると考えられる。また、本研究の結果は、下側頭葉皮質の細胞が・手がかりに依存することなく、形の情報を伝達できるとういう考え方を支持している。