Vision Vol. 13, No.2, 87-91 (2001)

腹側視覚経路における両眼視差と面の情報処理

 

藤田一郎・田中宏樹・谷川 久

大阪大学大学院基礎工学研究科
 大阪大学基礎工学部(科学技術振興事業団CREST)

 

 

はじめに
 2つの眼は水平方向にずれており、それぞれの眼はわずかに異なった世界を見ている。このことは、目の前に人差し指をたてて、右眼と左眼を交互に閉じてみると指と背景の関係が変化することで容易に実感できる。一点を注視すると、その像は左右の網膜それぞれの中心窩に投影される。その点と同じ奥行きにある別の点の像は、左右眼で、中心窩から同じ方向に同じ距離だけ移動した位置に投影され、注視面の手前や奥にある点は、両眼の網膜の上で中心窩から異なった距離・異なった方向に投影される。両眼投影像のこの位置のずれは両眼視差と呼ばれ、その符号と大きさから、脳は視覚対象の注視面に対する相対的奥行き位置を算出することが出来る。
 これまで、霊長類大脳皮質の腹側視覚経路に位置する下側頭葉皮質(IT)は、形、色、模様などの、物体の識別・認識に重要な視覚属性を主に処理していると考えられてきた。しかし最近、ITが、両眼視差やその関連情報(視差や視差勾配から復元された3次元面構造や視差から計算した2次元の形)を伝えていることが明らかになり、ITにおける視覚情報処理の研究は新しい局面を迎えた。同時に、大脳皮質の様々な領域で見つかりつつある両眼視差選択性細胞の機能的意義を問うことが重要な研究課題として浮上してきている。