「高次脳機能への挑戦」23-33(分担執筆)朝倉書店 2001

1編第2章2節 側頭葉における両眼視差、形、面の情報処理

 

藤田一郎

 

 「ものを見る」際、脳は膨大な仕事を行っている。物理学者Richard Feynmanは、知覚を「プールの一角に浮かぶ虫が、四方八方からやってくる波の様子から、泳ぐ人たちの数、位置、動きを検出する」ことにたとえた。この比喩は、網膜で受容した電磁波情報から対象を知覚している脳の働きの規模と難しさを、見事に要約している。そのむずかしさの一つが三次元構造の知覚である。網膜において、視細胞一つ一つは、自分が受けている光の強度と波長の時間変化を情報として伝えるが、その光がどの距離からきたかを伝えることはできない。この段階で、外界世界の奥行きを明示的に与える情報は失われている。しかし、われわれが主観的に感じる世界は、明白な立体感をもっている。脳は、二次元網膜像から三次元世界を復元しているのである。この脳内情報処理過程に側頭葉の視覚連合野、下側頭葉皮質がかかわっていることを示唆するわれわれの最近の研究成果を紹介する。