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赤色をみると計算能力が向上する??

大阪大学 基礎工学部システム科学科
生物工学コース
小山佳輝
2011/01/24 初出



はじめに

 昨今、社会では子供たちをよりよい学習環境へ置くため、よい学校へ入学させようと中学受験を子供に促す家庭が多くなっています。 そういった「お受験」ブームにのっとって、 現在多くの塾や文房具会社、本屋などが独自の商業戦術を駆使して子供たちの親からいかにしてお金を引き出すかということに策を練り、 しのぎを削っています。
 そうした中で、塾の講師や、業者の誇大広告などによってもたらされたさまざまな迷信じみた受験対策勉強法などがあります。 受験生の親は藁にもすがる思いでいるため、多少眉唾ものの情報にでも飛びつこうとします。 ここでは、そういった怪しい情報の中でも科学の知識を多少載せることによって信じ込まされているパターンを取り上げて考えてみたいと思います。
 今回取り上げる題材は、算数の問題を解く前に赤いものを見れば計算能力が格段に上昇して普段以上の成果が出せるという話です。 の話は、私自身も経験があり、 小学校の時分には塾の公開テストなどで、 算数の試験前には赤い下敷き越しに教室中を見まわしている子たちがたくさんいるという異様な光景を見たことがありました。
 果たして、この話は本当なのでしょうか?

この話の起こり


 最初に、注意していただきたいのはこの話を聞いたことがない方が多数いるかもしれないことです。 私が確認した限りでは主に関西圏ではよく広まっている話であるようですが、全国的な迷信ではないようです。 学生へのアンケートによるとおもに1997年ごろから、この話が急速に広まってきていたようです。 この話が小学生の間で急速に拡大したのは大阪上本町にある、多数の中学受験塾で爆発的に広まったからだと考えられます。 きっかけは、当時赤色がアドレナリンの分泌に関与するということ、 赤が興奮を促す色であるということを小学生の母親や塾の講師たちが大幅に解釈を拡大して赤色が計算能力の向上に役立つという内容として小学生たちに伝えたことのようです。 実際、ある塾では赤色が計算スピードをあげると教えていた講師もいました。 もちろん、当時赤色が計算能力を向上させるなどといったことを立証するものはありません。

赤色と脳との関係


 インターネットなどでは「赤色は心理現象としてではなく生理現象としてアドレナリンというホルモンの分泌を促します。 ですから、赤色をみるとアドレナリンにより交感神経が刺激されることにより脈拍や呼吸数が上がることにより体温が上昇し、興奮状態に入ります。」 ということにより赤色は興奮を人体に作用させる色であるとしている記事が多く存在しています。
 ただ、そういった内容の説明の中にはほとんど色を見ることによるホルモンや脳内物質が生産される機序に関する説明はなされていません。 また、アドレナリンが分泌されても、 それが大脳生理学的に影響がある分量なのかの説明もありません。

アドレナリンの分泌と計算能力の関係

 アドレナリンは、主に交感神経が興奮した状態すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれます。 動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどの時に、以下のような反応を、全身の器官に引き起こします。
  • 運動器官への血液供給増大を引き起こす反応
    • 心筋収縮力の上昇
    • 心、肝、骨格筋の血管拡張
    • 皮膚、粘膜の血管収縮
    • 消化管運動低下
  • 呼吸におけるガス交換効率の上昇を引き起こす反応
    • 気管支平滑筋弛緩
  • 感覚器官の感度を上げる反応
    • 瞳孔散大
    • 痛覚の麻痺
    • 勃起不全
 これらの中に、計算能力が上がることに貢献するような作用がありません。 また、実験的にアドレナリンの分泌によって手計算が速くなるといったことが関係していることを立証した研究はありません。

結論

 赤色を見たからといってアドレナリンの分泌が増し計算能力が向上するという話は明確な立証などがないため、 盲目的に信じるのは危険ではないかと考えられます。ただ、そのことを否定するような実験結果などはありません。 「赤い下敷きを見れば計算能力があがる」と言われた子供が、自信をもってテストに臨むというような効果をもたらすのかもしれません。 しかし、それは、赤い色を見て計算能力があがるということではないのです。
 ただ、2009年2月5日付のscienceのオンライン速報版science expressによると「赤色が集中力に関係する」という報告が出ていることは注目に値する。 これからの研究次第では、赤い下敷き効果は本当の事であることが立証される日が来るかもしれなません。




参考文献
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3

色彩生理心理学 浜畑紀著 黎明書房

カラーセラピストなどによる色とホルモンに関する記述
http://blog.livedoor.jp/sui_vent/archives/3430893.html
http://www.true-c.com/kawasima_sugoi_5.html
http://www.kaisernetwork.biz/2008/02/post_48.html
http://www2d.biglobe.ne.jp/~mik-lion/spark/colort/index.html
http://kawabuchi.tv/2season.html


science expressでの論文の内容を要約したニュースのページ
http://www.medicinenet.com/script/main/art.asp?articlekey=97491
http://www.webmd.com/brain/news/20090205/color-yourself-cautious-or-creative



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