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PBLレポート:

モーツァルトを聴くと頭が良くなる?

大阪大学 基礎工学部システム科学科
生物工学コース 2年
深澤 宇紀
2011/01/28初出

はじめに

 「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」という話を聞いたことはありますか?
 私がこの話を聞いたのはモーツァルト生誕250年であった2006年だったと思います。 この年はモーツァルトの効果を謳った広告やテレビ番組を数多く見たことを覚えています。 私は幼児教育や野菜の栽培においてモーツァルトを聴かせると効果があるという話を聞いたことがあったので、 この話を初めて聞いた時はさほど驚きませんでした。そして、同時に驚かないということが不思議に思えました。 いつの間にかメディアなどによって「モーツァルトを聴くと賢くなる」と頭に刷り込まれているような気がしました。
 そこでモーツァルトを聴くと本当に頭が良くなるのかどうかを過去の論文などをもとに調べてみました。

モーツァルト効果とは?

 「モーツァルトに代表されるクラシック音楽を聴くと頭が良くなる」 と主張される効果のことです。

モーツァルトをきくと賢くなるのか?

 初めにモーツァルト効果というものを提唱したのはカリフォルニア大学アーバイン校の心理学者フランシス・ラウシャー (Frances H. Rauscher)を中心とする研究グループです。 ラウシャーらが行った実験は1993年のNatureに「Music and spatial task performance」という論文で掲載されました。
 実験の概要は36人の大学生にそれぞれ10分間、 以下の3パターンの状況に置かれた後に空間認知やパターン分析に関するIQテストを受けさせ、点数を比較するというものです。
  • モーツァルトの「二台のピアノのためのソナタ , ニ長調 , K448」を聴く。
  • リラクゼーション用のテープを聴く。
  • 静かなところで待機する。
 この実験結果は論文内の表(著者のサイトへのリンク: PDF file)が示しています。


 左の「Standard age score」の点数からIQを割り出すと、Music、つまりモーツァルトを聴いた場合では他の二つの場合と比べて、 IQが8-9ポイント上昇していることが分かります。
 ラウシャーはこの結果からモーツァルトの 「二台のピアノのためのソナタ , ニ長調 , K448」を聴くと 空間認知に関するIQが8-9ポイント上昇すると結論付けています。 また、モーツァルト効果は10~15分ほどしか持続しないとしています。
 このラウシャーの論文では最後にこれからの展望として「IQ上昇効果はモーツァルトの曲でしか起こらないのか、 音楽の鑑賞時間として適切な時間はどれくらいなのか、空間認知だけでなく言語や短期記憶といった一般のIQも向上するかを調べたい」と述べています。

ここまでの疑問点

  • モーツァルト以外の音楽では効果は表れないのか?
  • あくまで空間認知に関する能力の向上であり一般的なIQが上昇したとか賢くなったとは言えないのではないのか?
 これらの疑問に答えている論文も「Nature」にありました。
 それはハーバード大学のクリストファー・チャビス(Christopher F. Chabris)という人物の 「Prelude or requiem for the ‘Mozart effect’?」という論文でラウシャーの論文から6年後の1999年に発表されています。
 この論文ではラウシャーの論文以後のモーツァルト効果に関する16本の論文からメタ分析を行うと、 モーツァルトを聴いても空間認知に分野での能力向上は小さいとしています。 ここで若干の能力向上があったのは、モーツァルトを聴くことで空間認知を司る右脳によい刺激が与えられたことによるものだとしています。 また能力向上が認められるのは右脳が司る分野だけであり、パターン分析や言語などの分野では能力は向上しないしています。 さらにモーツァルト効果は他のクラシック音楽でも発生し、 効果が得られるかどうかは音楽を聴く人がその音楽を心地よいと感じるかどうかに依存するようです。

分析の分析

 「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」というのは迷信であると結論付けます。
 右脳にとって良い興奮をもたらすような音楽を聴くと、 右脳が司る空間認知の分野においてのみ若干の能力向上が起こるもの可能性があるが、 決してモーツァルトの曲だけで起こるというわけではないと考えられます。 そしてモーツァルト効果はもともと空間認知に関する分野での能力向上だけであったはずなのに、 時が経つにつれて、「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」という迷信を生んでしまったようです。

参考文献

  • Chabris CF. Prelude or requiem for the 'Mozart effect'? Nature. 1999 400(6747):826-7; author reply 827-8.
  • Rauscher FH, Shaw GL, Ky KN. Music and spatial task performance. Nature. 1993 365(6447):611.

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