大阪大学大学院 生命機能研究科 認知脳科学研究室 生物学、脳研究、脳と心、意識、認知脳科学、神経科学、行動学、視覚、錯覚、脳の発達
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ゲーム脳と脳波

大阪大学 基礎工学部システム科学科
生物工学コース 2年
末松 尚史
2009/03/27初出

はじめに

ゲーム脳。数年前から言われ出したこの言葉は、ときに犯罪の原因にランクインするほどメジャーなものとなっています。しかしそこには問題や矛盾があふれており、多くの脳研究者からの批判が存在します。ゲーム脳仮説を簡単に説明すると、「ゲーム中の脳波は認知症患者のようにベータ波/アルファ波が小さくなっている」というものです。ここではその核となっている脳波を採り上げていきます。

脳波は電圧


近年の脳ブームよりももっと以前から「脳波」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし、「リラックスしてるとアルファ波が出てくる」「深い睡眠と浅い睡眠とでは脳波が異なる」などとは聞きますが、普段の生活ではその正体はあまり語られていません。

一言で脳波を説明すると「複数のニューロン活動の和」と言えます。そのことをもう少し詳しく見てみましょう。


図1 信号伝導・伝達


身体中に張り巡らされたニューロンはニューロン内では活動電位を発生して、ニューロン間では化学物質を介して信号を伝えていきます。このことは脳内のニューロンにおいても例外ではなく、脳が活動する度にバリッバリッと電気が生じ、ピュッピュッと化学物質が放出されています。

脳に電極を挿し、単一ニューロンの電位変化を観察すると図2のようになります。



図2 単一ニューロン電位変化

頭皮に電極を貼り付けて電位変化を計測すると、弱まった、しかもいくつものニューロンの電位変化が混ざったものが採れます。これが「脳波」です。


図3 脳波

例えば複数のニューロンが同時に活動すれば一つの大きな脳波となり、ばらばらに活動すればいくつもの小さな脳波となります。このようにして脳波は変化します。また、「神経科学―脳の探求―」(ベアー コノーズ パラディーソ 著)によれば活動するニューロンの数の変化も脳波の変化に影響するようですが、単一ニューロンの活動頻度の変化も同様に脳波の変化に影響するものと思います。

脳波計は電圧計


上の説明でわかるように、脳波を測定する装置「脳波計」は 生体用に改造された電圧計で、基本的なところは心電計・筋電計と同じです。しかし頭皮上で測定することで、上にも述べた様に電位変化が小さくなってしまう、脳波だけではなく筋電位も混ざって測定されてしまうといった問題もあります。

また、測定しているたくさんのニューロン全てが同時に活動するわけではなく、いくつかのニューロン同士が同じ周期で活動し、また別のいくつかのニューロン同士が同じ周期で活動するという具合に、いくつかのグループが出来上がります。このようなグループの状態を見るために、脳波計で採れた一つの脳波をフーリエ解析という手法を用いて周期(=周波数)ごとにいくつかのグループに分けます。それらのグループの中に「アルファ波」や「ベータ波」などのよく聞く名前が登場します。


図4 フーリエ解析(脳波=A×アルファ波+B×ベータ波+・・・)


大まかに言えば、アルファ波は8〜13Hz(一秒間に8回から13回波が繰り返される)、ベータ波は14〜30Hz(一秒間に14回から30回波が繰り返される)の脳波のことですが、この数字は研究者によって微妙に前後します。また、アルファ波の下にシータ波・デルタ波、ベータ波の上にガンマ波という名前の脳波が存在します。

脳波の迷信


さて、そんな脳波が核となっているゲーム脳仮説。最初に述べたように「ゲーム中の脳波は認知症患者のようにベータ波/アルファ波が小さくなっている」と主張していますが、同時に述べたように数多くの批判が存在します。「ゲーム以外の場合にもゲーム脳と同様の脳波状態になっている」というものから「そもそもの実験のやり方からなっていない」というものまで目白押しですが、それらをまとめたところでWikipediaでも見れば分かってしまうことなので、ここでは「まばたき程度で脳波は変化するものである」というものを紹介しておきます。

脳波の世界には「アルファブロッキング」「アルファ抑制」などと呼ばれる現象が存在します。これは(例えば目を開けたときに)「アルファ波が少なくなる」というもので、ベータ波/アルファ波で考えるならばこの値は大きくなります。ベータ波については上でアルファ波よりも高周波な脳波ということを述べましたが、ゲーム脳仮説の批判者の一人、精神科医の斎藤環氏はベータ波について「いろんなノイズが多いときに出てくる波」「目を開くと視覚刺激が入ってきますから、ノイズが増えるわけです」と表現しており、「脳波というのは目を閉じたり開いたりするだけで、切り替わる程度のものなんですよ」と続けています。(斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖1)

ここで斎藤氏が説明しているのは図3で自分が説明していることに関係していると思います。しかしノイズによって増えるというならば、ベータ波止まりではなく更に高周波の脳波(ガンマ波)が増加するものではないでしょうか。このことについて調べてみるとメディカルシステム研修所のホームページに次のようにありました。「大脳皮質の活性度が高くなると、たくさんのニューロンにおけるシナプス後電位の分散性が高くなるために、α波だけでなく、原則としてすべての脳波の振幅は減少する傾向を示す」そして開眼時の脳波中のデルタ波・シータ波・アルファ波・ベータ波の含有量が示されているのですが、その全てが低くなっているにもかかわらず脳波は細かく振動しているため、「ガンマ波が増加している」という解釈のほうが正しいように思います。(脳波のなぜ? 1のQ3)

また実際の脳活動以外の要因で脳波が変化する例(つまりノイズ)として、「脳波入門」(C水健太郎 他 著)には次のようにありました。「眼球運動とまばたき」「発汗」「筋電図」「心電図」「からだの動き」「呼吸」「電極の接触不良、電極の故障」「交流雑音」「その他の誘導雑音」このように、脳波計測には大変多くの要因が関わってしまうことが分かります。ただしイオンチャネルが登場しないほど古い本(昭和39年7月1日 第3版発行)であるため、今とはいくらか状況が異なっているかもしれません。

こうなると「脳が働くとベータ波が出る」や、ゲーム脳仮説の「ベータ波が減っているから(アルファ波が増えているから)脳が不味いことになっている」のような、脳波の一部の増減のみを見た表現・主張はかなり怪しいところがありそうです。

結論

ゲーム・漫画の好きな自分としてはゲーム脳仮説はいい気がしなかった、というと実はそうでもなく、大してその中身については理解していませんでした。これを書くにあたって、初めてその大本の主張を知ったほどです。今回の調査を通して、脳波の検査などで脳波と実際の現象とを結びつけるのはまだ安全かもしれないけれども、そこから何かしらの意味付け(アルファ波はリラックス、ベータ波は集中、そしてゲーム脳など)を行うのは危険である、するべきではないという印象を持ちました。参考文献の中には「脳波についてはまだはっきりしたことが分かっていない」(例えば、上では触れませんでしたが、何がアルファ波を発生させているのか、など)と書かれているものもあり、ホットではないにしてもまだまだ知るべきことの多い分野であるように感じました。今後もこの分野に対する興味を持ち続けていきたいと思います。


参考

神経科学―脳の探求―(ベアー コノーズ パラディーソ 著)第1刷
• 脳波入門(C水健太郎 他 著)第3版―新しい脳波の入門書はないものか。
ゲーム脳 - Wikipedia―丸呑みするのは良くないけれども、ゲーム脳全体の話を知ることが出来たので・・・
斎藤環氏に聞く 『ゲーム脳の恐怖』1―斎藤氏と府元晶(ゲイムマン)の対談形式のページ。
脳波のなぜ? 1―Q&A形式。ゲーム脳に関するページもあり。
• 日々の授業―先生方ありがとうございます。

関連

脳波に関する応用技術の紹介。
NeroSky―脳波を使った玩具を開発。
サイコパワーの破壊力――記者が「脳波ゲーム」を体験 | WIRED VISION―NeuroSky社コントローラのレビュー。
OCZ Technology―主にPCパーツ・周辺機器を扱うメーカ。ここも脳波を使った玩具を開発。
4Gamer.net — 今日から君もミスター念力? 「Neural Impulse Actuator」でゲームキャラを脳波コントロールしてみる―OCZ Technology社コントローラのレビュー。
ブレイン-マシン・インタフェース最前線− 脳と機械を結ぶ革新技術 −(櫻井芳雄 八木透 小池康晴 鈴木隆文 著)―人体(特に脳)と機械を結ぶBMI/BCI技術についての本。脳波を使ったBCIについての記述あり。「空間分解能の低さ・ノイズのなどの問題から単体では限界があるが、他の計測法と組み合わせることでより有用なBCIを構成できる可能性がある」とのこと。



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