サルにおける一般像抽出原則の心理物理学的証拠

宇賀貴紀、田中宏喜、加藤誠、藤田一郎

1998年8月5日〜8月7日

視覚科学フォーラム 第2回研究会(岡崎国立共同研究機構コンファレンスセンター)

  2次元網膜画像から3次元表面構造を復元する情報処理過程には、非常に複雑な計算が必要である。私たち人間はこの複雑さにもかかわらず、局所的に与えられた視差情報をもとに、よりグローバルな3次元表面構造を一つだけ知覚する。例えば、十字の水平の腕に両眼視差をつけたときには2本の棒が互いに重なり合っているように知覚し、Redies-Spillmann(R-S)図形では、物理的には色が存在しない領域に色が拡散し、赤い半透明な円盤が白い十字を遮蔽しているように知覚する。NakayamaとShimojo(1992)はこのような知覚現象は一般像抽出原則に従っているという仮説を提唱した。この仮説によると、一つの網膜像から複数の3次元表面構造の復元が理論的に可能な場合、視覚系は知覚すべき3次元表面構造を「偶発的」ではなく、「一般的」な視点から見ていると解釈する。この仮説は理論的観点からはこれらの知覚現象の良い説明を与えてくれるが、脳内での情報処理過程の説明を与えてくれない。そこで、本実験では神経生理学的手法の導入を目的に、サルもこのように3次元表面構造を知覚するか調べた。
  まずはじめに、サルに十字の水平の腕に交差視差か非交差視差のどちらが与えられているかを弁別する課題を訓練した。すると、学習された反応は、一般像抽出画像で予測されるとおり、実輪郭によって重なり合う2本の棒に分離された十字の弁別に転移した。次に、赤い十字に薄い円盤が乗っているかどうかを弁別する課題を訓練した。すると、学習された反応はネオン色拡散が知覚されるR-S図形とネオン色拡散が知覚されないコントロール図形との弁別に転移した。これらの結果は、サルも十字の水平の腕に両眼視差をつけたときに重なり合う2本の棒を知覚し、R-S図形でネオン色拡散を知覚することを示しており、サルも一般像抽出原則に従って、3次元表面構造を復元している可能性を示唆している。本口演ではさらに一般像抽出原則の問題点も議論する。


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