下側頭葉皮質の機能構築

藤田一郎

1998年8月5日〜8月7日

視覚科学フォーラム 第2回研究会(岡崎国立共同研究機構コンファレンスセンター)

  机やイスの並べ方を見れば、その部屋の使われ方(例えば、会議室か立食パーティー会場かセミナー室か)が想像できるように、システムの機能や機構がその構成要素の配列に反映されている事例は多い。脳のような長い進化の産物においては、なおさら同様の関係が成り立っていると考えられる。大脳皮質のある領野の機能構築(どんな性質の細胞がどのように配置されているか)を調べ、その領野での情報処理の様式を推測するアプローチはこの考えに基づいている。
  サルの下側頭葉皮質TE野の細胞の多くは、複雑な図形特徴(形や、形と色、テクスチャーとの組み合わせ)に反応する。これらの細胞は、TE野の中でその刺激選択性に関して無秩序に分布しているのではなく、似た図形に反応する細胞が、幅約0.5ミリの柱状に集まって存在し、コラム構造を形成している。ある領野で処理されている情報の中で大事なものが、その領野のコラム構造を規定していることは、多くの脳部位で確認されており、TE野に図形コラムが存在することは、TE野が形の処理に大きく関わっていることの証拠として捉えられる。一つのTE野コラムを強く活性化する図形と、その隣りのコラムを活性化するコラムの間には、現在のところ、関連性が見いだされず、TE野の図形脳内地図は、V1のような連続地図(continuous map)ではなく、不連続なパッチ地図(patchy brain map)に属すると予想される。コラム間の相互作用を担う錘体細胞の水平軸索枝の終末集団の分布の広がり、異方性、隣り合う部位の投射先での重複度は、この予想と良く一致した特徴を、V1、TE野それぞれが有している。TE野がpatchy brain mapとして構築されていることは、そこでなされている計算が、形情報空間の中での「局所的な」処理(たとえば、刺激選択性を高める)だけでなく「よりグローバルな」処理(たとえば、大きく異なった図形特徴の間の相互作用)を行っていることを示唆している。


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