Fujita, I. How is visual shape processed by the inferotemporal cortex? Jpn. Orthopt. J. 21:161-168.
藤田一郎 「形の認識:下側頭回における情報処理」 第33回日本視能矯正学会(大津)1992.9.26


形の認識:下側頭回における情報処理

新技術事業団さきがけ研究21および
理化学研究所フロンティア研究システム

私たちは,多様な形・色』テクスチャーをした様々な物体に囲まれている.たとえば,私の机の上には,この原稿を打っているコンピュータがあり,その脇には,受話器,ランプ,鉛筆,スライド,封筒などがある.同僚の机の上には,色や形の違う同様の物体が,異なった配置で異なる照明条件のもとで置かれている.私は,一瞥して,これらの物体が何であるかを知り,また2つの机の上のどの物体とどの物体が同じであるか,似ているが違う物体であるか,または,まったく別物であるかを知る.この日常的できごとは,私達の脳が果たしているすばらしい機能の一側面を示している.すなわち,この世界に存在する無数に近い物体や図形を区別すると同時に,似たものを似たものとして認識する能力である.物体の視覚像は脳の中でどう表現され,このような事を可能にしているのだろうか.サルは,様々な点で人間に匹敵する視覚能力を持っている.物体や図形の弁別能力もその一つである.その下側頭回前半部(TE野)は,物体視に関わる神経経路の最終段に位置している.したがって,TE野における神経細胞の性質とその配列の様子は,脳における物体像の最終表現を反映しているはずである.われわれは,最近,この領野が,皮質の表面から底までを貰く,平均直径O.4ミリの機能的柱状構造(コラム構造)から成っていることを示す証拠を得た.個々のコラムの中には,似た,しかし,多くの場合,わずかに異なる図形特徴に応じる細胞が含まれている.例えば,一つの細胞が,丁字型に応答し,そのすぐとなりの細胞はY字型に応じ,またその隣は,矢印に応じる.即ち,これらの細胞は,「線分の交わりにより形成される,隣り合う二つの角(かど)」に応答するという点で共通の性質を持つが,その交わりの角度に対しては,異なる感受性を持っている.このような機能構築が,図形の違いと似ている点を同時に扱えるためのしくみになっている可能性がある.