フクロウの音源定位の神経機構

              理化学研究所国際フロンティア

 動物が音を検知したとき、その音の内容を知る一方で、その音がどの方向から来たのかを知らなくてはならない。獲物を捕らえ、交尾相手を見つけ、捕獲者から逃げるとき、音の位置を知る能力はその動物の生存に関わってくる。メンフクロウはそのような自然淘汰圧がとくに強くかかったと思われ、その音源定位能力は、これまで調べられた動物の中で最も正確である。
 メンフクロウの中脳下丘外側核(ICx)の神経細胞は空間内の特定の領域(受容野)から発した音に対してのみ反応し、しかも、それらの細胞は受容野の位置に従って配列して聴覚空間の地図を形成している。音の受容細胞は音の周波数に選択性を持っているが、音の位置はコードしていないので、脳が情報処理の結果、受容野および空間地図を作らねばならない。この動物は両耳に達する音の時間差(ITD)を用いて音の水平位値を知り、音の垂直位置を知るためには両耳での音の強度差(IID)を使っていることから、神経細胞がいかにして聴覚受容野を持ち、聴覚地図を作るのかという問題は、ITDIIDをコーディングする機構を問うことに置きかえることができる。
 個々の聴神経は脳の中に入ると、二つに分岐し、大細胞核NMと角状核NAに達する。NMには音の時間情報(ITDに関わる情報)のみが伝えられ、NAには強度情報(IIDに関わる情報)だけが伝わる。この後、中脳にいたるまで、二つの情報は、独立の経路で並列的に処理される。現在、その神経路はITDおよびIIDの両方について判明しているが、そこでなされている情報処理の内容と機構については、主にITD経路について解析されている。
 NMは両側の層状核NLに軸索を投射し、そこで初めて両耳からの情報は比較され、NL細胞が特定の範囲のITDに選択的に応答するようになる。NL で生じたITD 選択性は、三つの神経核を経てICxへ伝えられる。その過程で神経細胞はITDに対してより鋭い選択性を持つようになる(12)。また、位相の等しいITDすべてに反応してしまう位相多義性(phase ambiguity)とよばれる現象を解決して、真のITDをコードするようになる。メンフクロウの聴覚神経路には抑制性神経伝達物質GABAを含む細胞や神経終末が多数存在する(3)が、このITD 選択性の鋭敏化と位相多義性の解決にGABAを介する抑制が寄与している(12)。GABA抑制はまた神経細胞の応答を持続的なものから一過性のものに変換することにも役立っており、情報処理の時間精度を向上させていると思われる。これらの作用を通して、GABA抑制は受容野の水平方向の大きさを決定する要因となっている(12)。


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