コイ嗅球における抑制-------誘発電位および細胞内電位の解析--------

魚類の嗅球の構造に関しては、従来主として形態学的手法を用いた研究が行われて来た。その結果、僧帽細胞(Mcell)の樹状突起(D)と顆粒細胞(Gcell)peripheral dendrite(PD)の間には相反シナプスが存在すること、Gcell deep dendrite(DD)には遠心性線維がシナプスすることが判明している。今回電気生理学的手法を用いて、コイ嗅球の神経回路の解析を試みた。(A)誘発電位の解析 内側嗅索(MOT)又は外側嗅索(LOT)を電気刺激すると、Gcell層から小振幅の陰性波(Component 1, C1)に続いて大きな陽性波(C2)が記録される。Mcellからの逆行性活動電位は、C1の潜時に一致していることから、C1は逆行性に賦活されたMcellの活動電位を反映していると考えられる。C2は、Mcell層より表層側で極性が逆転して陰性波となるので、McellDからの興奮性入力によるGcellPDの脱分極を反映していると推定できる。MOT刺激により、C2に続いてさらにC3C4が誘発される。C3C4の極性は、Gcell層で陰性、表層で陽性であった。又、嗅索切断により嗅球への遠心性線維が変性したと思われる標本では、C3C4が特異的に消失した。これらの結果から、C3C4GcellDDの遠心性線維による脱分極を反映していると推定できる。さらに、MOT刺激により誘発されるC2(MOT-C2)LOT刺激により誘発されるC2(LOT-C2)は、嗅球内での空間的分布が正中線に関して対照的であった。則ちMOT-C2は、嗅球の内側部で表層陰性?Gcell層陽性、外側部でいずれの層でも陽性を示し、一方LOT-C2は、内側部でいずれの層でも陽性、外側部で表層陰性?Gcell層陽性を示した。このことから、MOT刺激により嗅球内側部のMcellが逆行性に賦活され次いで樹状突起間シナプスを介して内側部のGcellPDの脱分極がひき起こされていること、一方LOT刺激により外側部のMcellの逆行性賦活に次いで外側部のGcellPDの脱分極がひき起こされていることが推定出来る。(B)細胞内電位の解析 誘発電位の解析から推定された神経回路の正当性を支持する結果が、Mcellからの細胞内電位を解析することにより得られた。即ち、(1)嗅索刺激後Mcellに誘発されるIPSPには、時間的にC2C3C4に対応する成分が存在する、(2)これらの各IPSP成分が記録出来るMcellの嗅球内の空間的分布は、C2C3C4の分布とよく一致している。以上のことから、(1)コイ嗅球Mcellにみられる抑制はGcellを介する、(2)Gcellへの興奮性入力には、McellDを経由するものと遠心性線維を経由するものの二種類がある、(3)これら二種類の入力は、嗅球内でそれぞれ特有の空間的分布を示す、ことが示唆される。


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