電子情報通信学会 ニューロコンピューティング研究会(仙台)2007.10.18-19(発表日10.19)

「シリコンマルチプローブを用いたラット大脳皮質感覚応答の生後発達の解析」

池添 貢司1 田村 弘1,2 木村 文隆3 藤田 一郎1,2
1大阪大学大学院基礎工学研究科/生命機能研究科 〒560-8531 大阪府豊中市待兼山町1-3
2 CREST, 科学技術振興機構 〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
3大阪大学大学院医学系研究科 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2
E-mail: 1 ikezoe@bpe.es.osaka-u.ac.jp, 2 {tamura, fujita}@fbs.osaka-u.ac.jp, 3 fkimura@nphys.med.osaka-u.ac.jp

あらまし シリコンマルチプローブによる多神経細胞活動同時記録法を用いて、ラット一次体性感覚野ニューロンのヒゲ刺激に対する応答の発達過程を出生後5日(Postnatal day 5, P5)からP30にわたって調べた。P5~18のラットの2/3層ニューロンは、4層との機能的な結合が弱いにもかかわらず、ヒゲ刺激に対する応答が存在し、その応答強度はラットが若いほど大きかった。各刺激試行に対するニューロンの応答強度は他のニューロンと協調的に変化し、この傾向はラットが若いほど大きく発達に伴って減少した。これらの結果はコラム内の層間結合の感覚経験依存的形成に、ニューロン群の協調的な活動応答が寄与していることを示唆する。
キーワード 多細胞記録, 相互相関解析, whisker, バレル皮質, スパイクタイミング, 試行間変動

Analysis of postnatal development of responses in rat somatosensory cortex using slicon-multiprobe electrodes

Koji IKEZOE1 Hiroshi TAMURA1,2 Fumitaka KIMURA3 and Ichiro FUJITA1,2
1 Graduate School of Engineering Science and Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, 1-3 Machikaneyama, Toyonaka, Osaka, 560-8531, Japan
2 Core Research for Evolutional Science and Technology, Japan Science and Technology Agency, 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, Saitama, 332-0012, Japan
3 Department of Neuroscience, Graduate School of Medicine, Osaka University, 2-2, Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871, Japan
E-mail: 1 ikezoe@bpe.es.osaka-u.ac.jp, 2 {tamura, fujita}@fbs.osaka-u.ac.jp, 3 fkimura@nphys.med.osaka-u.ac.jp
Abstract We examined developmental change of responses to whisker deflections in rat primary somatosensory cortex between postnatal day 5 (P5) and 30 using multiple single-unit recording techniques with silicon-multi probes. Although functional connections from neurons in layer 4 to those in layer 2/3 were weak in rats before P18, layer 2/3 neurons responded to stimuli. The magnitude of responses in younger rats was larger than that in older rats. Trial-trial variations of responses magnitudes were correlated among neurons. This correlation was decreased with development. The results suggest that correlated activities among neurons contribute to sensory-experience dependent development of neural circuit.
Keyword multi-neuron recording, cross-correlation analysis, whisker, barrel cortex, spike timing, trial-to-trial variability


1. 背景
1.1. 機能的コラム構造
脳表面に対して垂直な方向に、似た刺激選択性を持ったニューロンが配列している機能的コラム構造は、哺乳類の大脳皮質感覚野におけるもっとも顕著な機能構造のひとつである。機能的コラムは皮質に垂直な方向に密な神経結合によって維持されている。階層的に前段階の領野からの刺激特異的な入力は、主に4層のニューロンへ到達した後に脳表面に垂直な方向へ伝達され、2/3, 5, 6層ニューロンの活動を誘発する。
幼若期には、4層から他層への軸索投射の密度は成体のものと比べ低く、シナプス前ニューロンの単一活動電位が、シナプス後ニューロンにもたらすシナプス入力の強度(以下、シナプス結合強度)も弱い。これらの解剖学的、生理学的な層間結合は発達に伴って徐々に強化される。解剖学的な投射関係やシナプス結合強度の変化は、遺伝的な要素に加えて、結合にかかわるニューロン群の電気活動に依存する。幼若期感覚野では感覚経験依存的な機能コラム形成がおこることから、感覚入力に対する電気活動応答が機能コラム形成に寄与していると可能性がある。電気活動応答が機能コラム形成に寄与するためには、電気活動応答が4層のニューロンに限らず、他層のニューロンにも起こっていると考えられる。
しかしながら、上述のように幼若動物ではコラム内の層間シナプス結合が弱いために4層ニューロンの活動によって、2/3, 5層のニューロンの活動を誘発するのは困難であると考えられる。では、どのようなメカニズムによって2/3, 5層のニューロンの活動は誘発されているのだろうか。

1.2. げっ歯類一次体性感覚野
ラットやマウスなどのげっ歯類一次体性感覚野(S1)では、頬ヒゲの配置に対応した感覚部位再現地図が存在する[1]。コラム状に配列した神経細胞群は共通の頬ヒゲを最適刺激(主ヒゲ)としてもつ。視床からのヒゲ特異的な入力は主に皮質4層のバレルと呼ばれる細胞集団に到達する。4層の活動は皮質表面に直な方向に伝達され、2/3層, 5層の活動を誘発する[2, 3]。
出生後8日(Postnatal day 8, P8)のラットにおいても、4層から2/3層へのコラム状の軸索投射や、4層ニューロンの活動電位が2/3層のニューロンにシナプス入力をもたらすシナプス結合が存在するが、軸索投射の密度やシナプス結合強度は成体のものに比べ弱い。生後約1週から3週の間の発達過程で、軸索投射密度は高くなり、シナプス結合強度は大きくなる[4]。
発達期(P4~)のラットに対して、ヒゲを切るなどの感覚制限を行うと4層ニューロンのヒゲ受容野は変わらないにもかかわらず、2/3層ニューロンのヒゲ受容野は変化する。このことは、4層から2/3層への結合の発達には感覚刺激によって誘発されるニューロンの活動が寄与していることを示唆している。
本研究では、P5~P31のS1においてシリコンマルチプローブを用い、2/3, 4, 5層ニューロン活動を同時記録し以下のことを調べた。1)2/3, 5層ニューロンは生後発達期のいつごろから感覚刺激に対して活動応答を示すか。それはシナプス結合の弱い時期から起こっているのか。個々のニューロンの応答特性(強度、試行間変動)は発達過程で変化するのか。2)応答するならば弱い層間結合を補うような、成体とは異なるメカニズムが働いているか。

2. 方法
2.1. 細胞外電位記録
P5からP31のSprague-Dawley ラットを用いた。ウレタン麻酔(1.2-1.8 mg/g, i.p., Sigma-Aldrich, St. Louis)したラットの頭蓋骨を露出させ、記録用チェンバーを接着後、チェンバーを固定台に固定した。麻酔中は常に心電図を計測した。体温は37℃に維持し、切開などの痛みを伴う作業を行う前に、術部に塩酸リドカイン(キシロカイン、アストラゼネカ)を投与した。S1ヒゲ領域を覆う頭蓋骨、硬膜を除去し脳表面を露出させた。電極を刺入後計測中は、脳表面の乾燥、振動を軽減するためにアガロースゲルで覆った。
16個の記録点が直線状に50μm間隔で750μmにわたって並んだ電極(NeuroNexus, Ann Arbor, MI; Fig.1B)を用い、複数細胞からのシングルユニットレコーディングを細胞外電位記録法によって行った(Fig.1C)。記録点を2/3〜5層に配置し、複数細胞の活動を同時に記録した。電気信号は10000倍に増幅し、0.5〜3kHzでバンドパスフィルタリングしデジタル変換した後(16bit, 20kHz)、パーソナルコンピュータに記録した。

Figure 1. 細胞外記録電位記録波形と電極の層決定
A)ラット大脳皮質スライスのニッスル染色像。電流を流したことによる組織の損傷が見られる。●○はB)の●○と対応している。層の境界を破線で示した。B)16ch シリコンプローブ電極の模式図、●○が記録用プローブ。計測後、組織破壊を作るために○のプローブ(1ch, 9ch)に電流を流した。C)シリコンプローブ電極によって同時記録した細胞外電位波形。最下部の波形はレーザー変位計によって計測したヒゲ機械刺激プローブの位置。細胞外電位波形にヒゲ刺激に対するスパイク応答が見える。

ハンドプローブを用いて、電極刺入位置のニューロン群に対して最大の応答を引き起こすヒゲを決定し主ヒゲとした。ヒゲ振動装置には、バイモルフ型のピエゾ素子にヒゲ刺激用のプローブを接着したものを用い、主ヒゲを刺激した。ヒゲ刺激用プローブの動きはレーザー変位計(LK-G85, キーエンス)によって実験中、連続的に記録した。ヒゲ刺激の1試行は、ヒゲの静止状態から尾側への動き(刺激オン)と尾側到達点からの静止状態への動き(刺激オフ、オン−オフ時間間隔:330ms)で構成し、試行間の時間間隔は2sまたは10sとした。試行回数はそれぞれ800, 200だった。
計測は1動物につき1回の電極刺入について行った。記録点の層決定を行うために、活動計測終了後2つの計測点それぞれに-10μAの電流を3〜5s間流し、皮質の微小部位を破壊した。深麻酔後、灌流固定した被験体の脳スライスをニッスル染色し、組織破壊を行った2点を顕微鏡下で、他の14点については2点との相対位置から、層を決定した(Fig.1A)。
スパイクソーティングは、過去の報告で用いた方法で自動的に行った[5, 6]。単離されたスパイクの起源となるニューロンの皮質内での深さの推定は以下のように行った。あるひとつのニューロンによって誘発されるスパイクは複数の隣接した記録点によって検出されるが、スパイクの振幅は記録点とニューロン間の距離の増加に対して単調減少すると考えられる。そこで、あるニューロンに対して最大の振幅のスパイクを記録した記録点の深さを、そのニューロンの皮質内での深さとした。

2.2. 解析
P30, 31のラットからの記録は,まとめて解析し以下では、P30として示す。

2.2.1. 応答強度
各試行の応答強度は、刺激オン後660ms間における発火数から刺激直前100msの平均自発発火頻度を引いたものとした。
応答強度の試行間変動を計算する際には刺激オン応答とオフ応答について個別に計算した。刺激オン、オフから330ms内の発火数から平均自発発火頻度を引いたものをそれぞれの応答強度とした。2細胞間での応答強度の試行間変動の相関は、ピアソンの相関係数(r)として求めた。
解析はヒゲ刺激に対して有意に発火数の上昇を示したニューロンについて行った(p < 0.01, Wilcoxon’s signed-rank test)。

2.2.2. スパイクタイミングの相互相関解析
2ニューロン間で発生するスパイクの時間的相関を調べるために、相互相関解析[5, 7, 8]を行った。cross-correlogramは、一方のニューロンのスパイク生起確率を他方ニューロンのスパイクに対する相対時刻に基づいて計算したものである。各ニューロンペアについて、cross-correlogramを-100〜100msの間で1msの解像度で計算した。
各ニューロンがヒゲ刺激に対して、時間的に固定したスパイクを試行間でばらつくことなく発生することによって、どの程度のスパイク相関が発生するかを推定するためにPST-based predictorを計算した。PST-based predictorは各ニューロンについてのヒゲ刺激に対する平均的応答の時間的な相互相関関数を計算したものである。各ニューロンについてPost-Stimulus Time Histogram(PSTH,ビン幅1ms)を計算し、各PSTH間での相互相関関数を計算した。

3. 結果
3.1. ヒゲ刺激に対する反応
P5からP30までのラットの主ヒゲ刺激に対するスパイク応答を記録した。Fig.2Aにすべてのニューロン由来のスパイクを用いて作成した集団PSTHを示す。
層間のシナプス結合が弱いP8までのラットでも、2/3, 4, 5層ニューロン群はヒゲ刺激に対して応答を示した。
スパイクソーティングによってシングルユニットを単離した。各層、各日齢でのシングルユニットの数(ニューロン数)をTable 1に示した。以下の解析は、シングルユニットについて行った。

Table 1. 記録したニューロン数

ヒゲ刺激に対する応答強度は、2/3, 4層において日齢の増加に伴って減少した(L2/3, r=-0.31, p=0.01; L4, r=-0.37, p=0.001; Fig.2B)。5層細胞にそのような傾向は見られなかった(r=-0.14, p=0.12)。
ヒゲ刺激に対する各ニューロンの応答は、試行間でばらつきがあった。応答強度の試行間変動を変動係数によって調べたところ、2/3, 5層では変動係数は日齢に伴って増加した(L2/3, r=0.40, p<0.001; L5, r=0.24, p=0.0055; Fig.2C)が、4層細胞にそのような傾向は見られなかった(r=0.19, p=0.11)。
以上の結果から、2/3, 4, 5層のニューロンのヒゲ刺激に対する活動応答は、P5のラットから起こっていること、2/3, 5層の主ヒゲ刺激に対する応答の強度はより若いラットの方が高いこと、応答強度の試行間変動は、より若いラットの方が小さいことがわかった。

Figure 2. ヒゲ刺激に対するスパイク応答
A)ヒゲ刺激に対するスパイク応答の集団PSTH。横軸は時間、縦軸はスパイクの発生密度を表す。記録したすべてのスパイクについて、各層、各日齢について分類し加算した。B)ヒゲ刺激に対する応答強度の発達的変化。刺激オン、オフを含めた1試行に対するスパイク発火頻度を応答強度とした。C)応答強度の変動係数の発達的変化。プロットは第1,2,3四分位数。

3.2. スパイクタイミングの相互相関
P18以下のラットにおいて、4層ニューロンのスパイクがもたらす2/3層ニューロンへの入力が小さい[4]にもかかわらず、2/3層ニューロンの感覚応答強度が成体のものと同等かそれ以上であることは、弱い4層ニューロンからの入力を補い2/3層ニューロンのスパイクを生じさせるメカニズムの存在を示唆する。
成体ラットと発達期のラットにおいて、発達期ではスパイク発生の閾値が低いなどの、2/3層ニューロンの膜電位からスパイクを生じさせるメカニズムが異なることによって、弱い4層ニューロンからの入力を補い、2/3層ニューロンのスパイクを生じさせている可能性を考える。もしこのことが起こっていれば、たとえ4層ニューロンのスパイクがもたらすシナプス入力が小さいとしても、4層ニューロンのスパイクがもつ2/3層ニューロンのスパイク発生に対する寄与の大きさ(以下、機能的結合強度と呼ぶ)は変化しない。このことは、発達初期のラットの2/3層ニューロンが成体ラットと同等以上の強度でヒゲ刺激に対するスパイク応答を示すことの原因となり得る。2/3層ニューロンと4層ニューロン間のスパイクタイミングの相互相関解析を行い、機能的結合の強度を検討した(Fig. 3)。
解析には、両方のニューロンがヒゲ刺激に対して有意に応答し、-100〜100ms内に100発以上のスパイクがあったペアを用いた。各cross-correlogramの面積を1として規格化し、P6~11, P12~15, P18, P30の各グループについての平均cross-correlogramを計算した(Fig.3)。
P6~11, P12~15, P18のグループの相互相関ヒストグラムは、P30のものと比較して、PST-based predictorに対する比が長い時間にわたって大きかった。これは、比較的長い時間スケールでのスパイク相関の存在を示している。しかしながらP30グループに見られるような、強い機能結合を反映していると考えられる、数msの範囲でのピークは見られなかった。これらの結果は、P18までのラットにおける4層と2/3層の、スパイク相関から観察される機能的結合は弱いことを示している。

Figure 3. 4層ニューロンと2/3層ニューロンのスパイクタイミング相互相関解析。各日齢グループ(P6~11, P12~15, P18, P30)での、各ニューロンペアで規格化した平均cross-correlogram(太線)とPST-based predictor(細線)。時刻0は2/3層のニューロンの発火タイミング

3.3. 感覚応答の試行間変動の相関
4層と2/3層の弱い機能的結合を介して、2/3層ニューロンの応答を4層ニューロンの活動が誘発するための成体とは異なるメカニズムが少なくとも3つ考えられる。1)4層ニューロンの刺激に対する発火頻度が大きく、小さなシナプス入力が時間加算されスパイクを誘発する。これは既に2.2.1で観察した(Fig. 2B)。比較的長い時間スケールでのスパイク相関があったことから、2)4層細胞が互いに協調して活動することによってシナプス入力の空間加算がおこることで、2/3層ニューロンの活動が生じる、3)コラム全体が協調してスパイクを発生する状態と静止状態との間で変化している可能性がある。以下では、2)、 3)について検討した。
P18以下のラット、P30のラットともに、各ニューロンの応答は試行間で変動し(Fig. 2C, 4AB)、一部の試行にのみ反応を示した。もし、2)が起こっているならば各4層ニューロンの応答する試行は一致している傾向があり、それに伴って、2/3, 5層のニューロン群の応答する試行も4層ニューロンの応答する試行と一致している傾向があるはずである。もし3)が起こっているならば、2/3, 4, 5層のニューロン群の応答する試行は一致している傾向があるはずである。つまり、2)、 3)が起こっていれば、各ラットについて同時記録されたニューロンのヒゲ刺激に対する応答強度の試行間変動は相関するはずである。加えて、2)であれば、4層ニューロン間でも応答強度の試行間変動が相関するはずである。
ニューロン間での応答強度の試行間変動の相関は、発達に伴って減少する傾向が見られた。より若いラットにおいて、あるニューロンが応答を示した試行では他のニューロンも応答を示す可能性は、より高かった(Fig.4AB)。
刺激に対する応答の試行間変動の2ニューロン間における相関を、ピアソンの相関係数を用いて定量化した。4層ニューロン間の試行間変動の相関をFig.4CDEに示した。Fig.4Aで示した、P11ラットの同時記録されたニューロンの刺激オン、オフに対する応答強度の試行間変動の相関係数は0.42±0.13、0.37±0.14 (mean±s.d., 3ペア)だった(Fig.4C)。P31のラットでは、試行間変動の相関係数の平均は0.019±0.05、0.032±0.05(741ペア)でP11ラットよりも小さかった(Fig.4D)。ラットの日齢が増加するのに伴って、試行間変動の相関は有意に減少した(Fig.4E, r-on: -0.72, p: 0.030, r-off: -0.70, p: 0.033)。このことは、より若いラットにおいて4層のニューロン群の応答強度は試行間でより協調的に変化していること、すなわち4層ニューロン群は刺激対して応答する試行が一致する傾向があり、その試行では4層ニューロンの出力の空間加算が起こりやすい状態になっていることを示している。
4層ニューロン間で観察された試行間変動の相関が層を超えたニューロン間でも起こっているかを調べた(Fig. 4FGH)。同時に記録された全ニューロンペアについて上述の解析と同様の解析を行った。P11のラットでは、試行間変動の相関係数の平均は0.48±0.19、0.40±0.19(36ペア)だった(Fig.4F)。P31のラットでは、試行間変動の相関係数の平均は0.024±0.054、0.036±0.054(2775ペア)でP11のものよりも小さかった(Fig.4G)。全ニューロンペアおいて応答強度の試行間変動の相関は日齢の増加に伴って有意に減少した。試行間変動の相関と日齢との相関は、 r-on: -0.59, p: 0.0005, r-off: -0.59, p: 0.0005だった(Fig.4H)。これらの結果は、より若いラットでは、2/3, 4, 5層のニューロン群が刺激に対して応答する試行は一致する傾向があり、その傾向はラットの発達に伴って減少していくことを示している。
この結果は、cross-correlogramのPST-based predictorに対する比が、若いグループで大きいことと一貫している(Fig.3)。この比が数10ms程度の広い時間幅で生じていることから、個々で観察された試行間変動の相関は、数ms程度の短い時間スケールの相関を反映したものではないといえる[8]。
以上の結果は、2/3層のニューロンの活動を効果的に誘発するためのメカニズムについて、上述の2)、 3)の両方の可能性を支持する。

Figure 4. 感覚応答強度の試行間変動の相関。A,B) P11とP31のラットで同時記録されたニューロンの各試行における応答強度を示す。横軸は試行番号、縦軸はニューロンの番号、グレースケールは応答強度を示している。応答強度は各ニューロンの最大応答で規格化し、1を黒で、0を白であらわしている。破線は層の境界を表す。P11の例では、3,4,5層から1,3,5個のニューロンの応答を示している。C,D,F,G)(A,B)で示したP11, P31での刺激オン、オフに対する応答強度の試行間変動の相関。C,Dでは、4層のニューロン同士の相関に限定してヒストグラムを作成した。E,H)相関の発達的変化。▲は刺激オンに対する応答の各個体についての相関の平均、○は刺激オフに対するもの。同一個体からのデータポイントは縦線でつながっている

4. 考察
機能的コラムの感覚経験依存的な形成メカニズムを探るために、P5~30のラットS1から、層を同定した複数ニューロンの活動を同時に記録し、ヒゲへの機械刺激に対する応答を調べた。その結果、層間の機能的な結合が弱い生後約2週までのラットにおいても、2/3, 5層のニューロンは4層のニューロンと同様にヒゲ刺激に対してスパイク応答を示した。全日齢のラットで応答強度は試行間で変動したが、より若いラットでは、試行間変動はニューロン間で相関していた。その相関は、発達に伴って減少した。4層のニューロンは2/3層ニューロンよりも先行してスパイクを発生する傾向がP12以降顕著になり(データ未掲載)、2/3層ニューロンのスパイクタイミング依存的シナプス可塑性によるシナプス結合の増強がおこり得ることがわかった。これらの結果は、コラム内の層間結合の感覚経験依存的形成に、ニューロン間の協調的な活動応答が寄与していることを示唆する。

4.1. シングルユニットの数
幼若期のラットで計測したシングルユニットの数が若成体期のラットよりも少なかった。このことは特に2/3層に顕著であった。これは2/3層のニューロンの活動応答が低いことに起因すると一見考えられる。しかしながら、シングルユニットの数は少なかったものの、電位記録波形の閾値処理にのみによって得られるマルチユニットの活動は、刺激に対して確かな応答を示していた(Fig.2A)。データには示していないが、幼若動物のスパイクの振幅は小さく、確かなシングルユニットを抽出することが困難であった。細胞外電位よって得られるスパイクの振幅は、活動電位の時間微分の大きさやニューロンの大きさを反映していると考えられている。2/3層のニューロンは5層に比べ小さく、幼若動物のニューロンでは活動電位の幅が広い。このためにスパイクの振幅が小さかったと考えられる。P18までのラットのシングルユニットの応答強度は、P30のものと同程度以上であったこととあわせて考えると、より若いラットで記録されたシングルユニットの数が少なかったのは、計測の困難さに起因すると考えられる。

4.2. 応答強度の試行間変動の相関とコラム形成
機能的コラムを含めた神経回路の形成には、遺伝的プログラムによって決定されているものに加えて、胎生期から幼若期に見られる自発的電気活動の相関の寄与が示されている。幼若動物においては感覚経験依存的な神経回路形成が起こっていることから、神経回路形成には感覚刺激に由来する活動が寄与している。本研究の結果は、感覚刺激に対しても相関の高い活動が幼若期にのみ起こっていることを示している。幼若期の弱い神経結合を活動依存的に増強するために集団的な協調活動が、自発的にも刺激依存的にも、利用されている可能性がある。

4.3. 感覚情報の伝達
複数のニューロン間で活動応答が相関することは、感覚情報伝達の観点から考えると、神経活動のノイズ除去を困難にする。つまり、同一の刺激に対してニューロン群の出力が変動するので、刺激を神経活動から推定できなくなる。ニューロン間の応答強度の相関が小さくなることは、ニューロン群全体の出力を安定させることに寄与している。P10以前のラットはあまりwhisking と呼ばれるヒゲを使った探索行動を行わない。P10以降、発達に伴い徐々にwhiskingは増加する。体性感覚野ニューロン群の集団としての活動応答が発達に伴って安定化することと、発達に伴ってwhiskingが増加するのには関係があるのかもしれない。

謝 辞
スパイクソーティングソフトウェアの提供をしていただきました、産業技術総合研究所の金子秀和博士に感謝致します。

文 献
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