平成19年度文部科学省特定領域研究「統合脳」夏のワークショップ(札幌)

平成19年8月21日〜23日
(発表日:8月23日)

研究課題名:物体および奥行きの知覚形成を支える神経基盤


"Depth discrimination for slow and rapid dynamic noise by the human stereoscopic system"

高野真希、土井隆弘、藤田一郎

ヒト両眼奥行き弁別の特性は、呈示時間や時間周波数といった、視覚刺激の時間特性に依存して変化することから、ヒト両眼視システムは、異なる時間特性を持つ視覚入力に対する、異なるサブメカニズムで構成されている可能性がある。最近のサルを用いた電気生理学的研究は、大脳皮質視覚野において、背側経路では、神経細胞は両眼視差エネルギーを計算し、腹側経路では、グローバルマッチを見つけ対応点問題を解く計算を行っていることを示唆している。本研究では、これら二つの計算過程が、異なる時間特性を持つ視覚刺激に対する両眼奥行き弁別にどのように寄与するかを検証した。
ヒト被験者は、ダイナミック・ランダム・ドット・ステレオグラム(RDS)の奥行き弁別課題を行った。RDSのドットパタン更新速度を試行ブロックごとに変化させた。一つの試行ブロックにおいて、両眼視差の符号を変化させた。二つの計算処理に対する信号強度を乖離させるため、ドットの輝度コントラストが両眼間で反転する割合を0 %から100 %まで変化させた。パタン更新速度が速い条件(e.g., 43 Hz)では、被験者は、ドットの輝度コントラストが全て反転しているときに、両眼視差の符号から導かれる奥行きと反転した奥行きを知覚した。輝度コントラストが反転するドットと同じドットの割合が同程度のとき、被験者は奥行きを知覚しなかった。パタン更新速度が遅い条件(e.g., 5 Hz)では、ドットの輝度コントラストが全て反転しているとき、被験者が反転した奥行きを知覚する傾向は弱くなった。ドットの輝度コントラストが反転する割合が半数のとき、被験者は正しい奥行きを知覚した。
これらの結果は、視覚入力が速く変化するとき、両眼奥行き弁別はエネルギー計算を反映し、視覚刺激の変化が遅くなると両眼マッチング処理の寄与が大きくなるということを示唆している。生理学研究の知見をふまえると、背側経路と腹側経路における情報処理は、それぞれ速く変化する画像と遅く変化する画像に対する奥行き知覚に寄与していることを示唆している。