平成19年度文部科学省特定領域研究「統合脳」夏のワークショップ(札幌)

平成19年8月21日〜23日
(発表日:8月23日)

研究課題名:物体および奥行きの知覚形成を支える神経基盤


「マカクザル視覚皮質ニューロンの膜特性の生後発達」

丸山敦子、石川理子、細山大輔、田村弘、佐藤宏道、藤田一郎

成体のサルおいて、初期視覚野である第一次視覚野(V1野)と形態視情報処理の最終段階である下側頭葉皮質のTE野の間では、第3層の錐体細胞の膜の電気生理学的特性に違いが観察された(石川ら、本班会議ポスター)。本研究ではこの特性が生後どのように発達するか調べるべく、生後10日齢、7ヶ月齢、および成体のマカカ属サル(ニホンザルMacaca fuscata 、カニクイザル M. fascicularis)の脳スライス標本を作成し、V1野とTE野の第3層錐体細胞に対しホールセルパッチクランプ法による記録を行った。
成体サルの細胞と10日齢サルの細胞を比較すると、V1野、TE野ともに、1)膜の時定数の短縮、2)過分極通電中にみられる内向き整流の顕著化、3)脱分極通電に対する最大発火頻度の増加、4)活動電位の波形の先鋭化という共通の変化が起きていた。入力抵抗や活動電位発生の閾膜電位には発達による明らかな変化はみられなかった。
7ヶ月齢サルにおける成熟の度合いは、V1野とTE野で大きく異なった。7ヶ月齢サルV1野の細胞は、膜の時定数、最大発火頻度、および活動電位持続時間の各特徴おいて、10日齢サルより成体サルに近い値を示したのに対し、TE野細胞のこれらの特徴は、10日齢サルに近い値を示した。過分極通電中の内向き整流性は、7ヶ月齢サルのV1野細胞は、10日齢サルと成体サルの中間的な値をとり、一方、TE野では10日齢と同様にほとんど観察されなかった。
以上の結果より、サルの視覚皮質の第3層錐体細胞は、1)出生直後にはV1野、TE野を問わず時間分解能が高くなく、生後発達に伴い、時間分解能が高まる、2)この変化は、生後少なくとも7ヶ月以上の長い期間をかけて徐々に起こる、3)成熟のスピードは領域により異なり、V1野がTE野に比べ早く成熟する、ことが示唆された。