人間総合科学会 第4回学術大会(東京)2007.2.17

「脳が見る,こころを見る」

藤田一郎
大阪大学大学院生命機能研究科


「見る,見えるなんて心と呼ぶほどのものか?」と思う人が多いだろう.目を開けば,色,形,
動き,奥行きに満ちた世界を見ることができる.見ているものが何であり,誰であり,どこにあり,どのように動いているのかが,何の努力もせずにわかる.このとき,頭を使っているとは思えないので,人を好きになるとか,何か決断をするとかにくらべて,心のできごとというにはあまりに単純であっけないことに思える.
「ものを見ることは難しいことではない。」というこの感覚とは正反対に,実は,「見る」ことは現象として不思議で複雑であり,また,「見る」ことを実現するためには,脳によるとてつもなくたくさんの仕事が必要とされている.その仕事の目的は,網膜でとらえ電気信号として送られてきた外界像に関する情報を徐々に加工処理して,「ものを見る」ために適した形にしていき,最終的には,「ものが見える」ことを成立させることである.その仕事内容の全貌は今も明らかではないが,他の心のできごとよりは少しだけ理解が進んでいる.本講演では,その一端を紹介し脳と心の関係を考えることを目指す。