物体認識を支える視覚脳機能

藤田一郎

「ものを見る」際、脳は膨大な情報処理を行っている。視覚は、網膜像という2次元画像2枚から眼前の3次元世界を理解するという困難な計算処理過程である。物体の位置、見る角度と距離、照明条件、物体自身の形の変化などによる網膜像の変化に左右されずに、無数の物体のカテゴリー化や個々の物体の弁別の行わなくてはならない。網膜で捉えられた視覚間局所の光の強度と波長の情報は、脳の中で様々な処理を受け、最終的には、上記の要請に役立つ形で、神経細胞の活動として表現されているはずである。視覚連合野TE野は、物体認識に必要な脳内経路の最終段階である。TE野が破壊されると、位置・運動の知覚は影響を受けずに、物体の識別と再認ができなくなる。TE細胞は、形、色、模様といった物体認識に有用な視覚てがかりに関する情報を処理伝達している。個々の細胞は、物体そのものではなく物体の図形特徴に反応する。とはいえ、その反応選択性は、線分・エッジ・平行縞に反応する初期視覚野の多くの細胞にくらべはるかに複雑であり、その形成メカニズムは、GABA-A受容体を介する抑制相互作用が寄与していること以外は不明である。TE野の中で、似た図形に反応する細胞は、皮質表面に垂直方向に並び、柱状構造(コラム)を形成している。TE野には1000-2000個のコラムが存在すると見積もられている。物体像は、コラムに表出されている限られた数の要素的図形特徴に分解されており、物体の特定は活動するコラムの組み合わせで表現されているという仮説が提唱されている。TE野はさらに、形、色、模様という2次元特徴のみならず、奥行き知覚の手がかりである両眼視差も処理していることが近年判明した。形と両眼視差の情報の統合により、物体の3次元構造の復元がこの領域でなされている可能性がある。


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